それぞれの想い・刹那編





   ザァァァァァァ・・・・水の流れる音がする・・・

   「・・・せ・・・ちゃ・・・!!・・・ぷはっ!・・・た・・けて・・・」

   かすかに私を呼ぶ声が聞こえた。

   「このちゃーん!このちゃーん!」

   私はただ叫んでいた。それしかできなかった・・・

   ザバァン!高い波がこのちゃんの体を覆いかぶさるように包みこんだ・・・

   私はそれを見て川に飛び込んだ。助けようとして・・・

   しかし、私の小さな体ではすぐに水の力に負けてしまい何もできなかった・・・

   薄れる記憶の中、私とこのちゃんは大人の人に助けられたのを覚えている・・・

   ・・・・・

   ・・・

   ・

   「!!!」
   私は目を覚ました。体には汗をかいていた。
   「・・・・・」
   いつも見ている夢だったが、今日は鮮明にでてきた。
   理由はわかっていた、今日は麻帆良学園の入学式。
   そう、このちゃんに会うことになるのだ。・・・護衛として。
   「・・・・・ふぅ」
   私はもうこのちゃんとは、親しくするのはやめようと決めていた。
   もう、私のせいで傷ついてほしくないからだ。
   ただ助けることができればいい、幸せになってほしい。
   そのために陰から見守っていれればいい・・・
   それに・・・本当の私を知ったらどんな気持ちだろう?
   軽蔑されて・・・嫌われて・・・そして・・・
   「・・・・・」
   そこから考えることを止めた。

   入学式の時、私はずっとこのちゃんを見ていた。
   髪が長く背も伸びていて別人にも思えるほど綺麗になっていた。
   何年も会っていないなら変っていても不思議ではないと思ったが、笑っている顔はあの頃とはなにも変わってはいなかった。
   ・・・変わっていない?本当にそうだろうか?
   私とはもう何年も会ってないから忘れているかもしれない。
   いや、あの事があって覚えていても嫌いになっているかもしれない・・・
   このちゃんに会って、いままでに考えなかった事がいろいろと頭によぎった・・・
   そんな時、このちゃんと目があった。私はとっさに目をそらした。
   「・・・・・」
   何も言ってこないので、このちゃんのほうを見ると友達と話をしていた。
   「やっぱり・・・か・・・」
   私のことを嫌いになったか忘れているかのどちらかだろう。だとしたら、忘れていてくれているほうがいいと思った・・・
   嫌われるぐらいなら、忘れていてくれるほうがいい。そう自分にいい聞かせた・・・

   帰り道に私の後ろから、
   「せっちゃん!」
   「!!!」
   聞き間違いかと思って後ろを振り向くとこのちゃんが立っていた。
   「やっぱりせっちゃんや〜久しぶり♪元気やった?あれからあえへんから心配しってたよ?」
   覚えていてくれた、話かけてくれた。ただあたり前で、ただそれだけなのにとても嬉しかった。だけれども私は、
   「お久しぶりです、お嬢様」
   そっけない返事をした、もう親しくしないと決めたからだった・・・
   「え〜?なんでお嬢様なんてゆうん?前はこのちゃんってゆうてくれたやん?このちゃんてゆうて〜?」
   そう言ってこのちゃんは顔を曇らせた、しかし私は、
   「いえ、私はそのような立場ではありませんので・・・」
   「でも昔はよく言ってくれたやん?このちゃんいうて?」
   「そんなに慣れなれしくすることはできません。私はこれから行く所があるので失礼します」
   「あ、せっちゃん待って・・・」
   軽くお辞儀をしてその場を立ち去った。

   ・・・私は自分に嫌気がさした。久しぶり会って、自分のことを覚えていてくれて嬉しかったのに、あんな態度をしたからだ。
   本当に馬鹿だと思った、本当に情けないと思った。
   その日の私の枕は濡れていた・・・

   「・・・何をしてるんだ?刹那?」
   「・・・いや、別に何もしていない」
   「木の上に登って身を隠しているのが何もしていないのか?ほう、それは知らなかったな」
   「・・・また嫌味か?」
   あれ以来このちゃんとは会いにくくなり、会わないように逃げていた。
   そして、龍宮から見つかるたびに嫌味を言われていた。
   「いい加減にしたらどうだ?別に仲良くしてもいいんじゃないか?」
   「ほっといてくれ、もう決めたことなんだ」
   必要以上に会わないようすると決めたのだ。
   「でも近衛さんを守るなら近くにいたほうがいいんじゃないか?」
   「きずかれないほうがいざって時に動きやすいだろ?ただお嬢様を守れればそれでいいんだ・・・」
   「・・・まるでストーカーだな」
   「何か言ったか?」
   「いや、何も」
   親しくなる必要はない、それが一番いいことなのだ。
   そう自分に言い聞かせて決めたことだ。
   そう・・・決めたんだ・・・

   私は屋上で龍宮と仕事の話をしながら昼食を食べていた、その時声が聞こえた。
   「アスナ〜こっち〜」
   このちゃんの声だ、屋上で逃げ場がない。
   「刹那、いいかげんに諦めたらどうだ?」
   「そこの屋根に登るぞ!急げ!」
   「もう、あき・・・」
   「いいから急げ!」
   このちゃんに見つからないようになんとか移動できた。
   しかし、なんでこのちゃんからこんなに必死に逃げているんだろう・・・
   自分で決めたこととはいえ虚しくなってきた・・・
   「風がふいていて気持ちいいね〜」
   「たまにはこんな所で食べるのもええやろ?」
   あの人は・・・神楽坂さんだ。このちゃんと親しくなったのだろうか?
   どんな人だろう?いい人だろうか?このちゃんと・・・
   「神楽坂さんのことが気になるのか?」
   龍宮が言った、笑いながら。
   私はあえて無視した。
   「な〜アスナ?相談にのってくれへん?」
   「ん?いいわよ何のこと?」
   「あのな・・・」
   相談事?なんだろう?しかしそんな事を盗み聞きしていいのだろうか・・・
   「嫌なら耳ふさいでやろうか?」
   龍宮が言った、また笑いながら。
   それにしてもさっきからなんで口に出さないのに思ってることがわかるんだ?
   「顔に書いてあるんだ、バレバレだ」
   まただ、笑いながら。私は気にするのを止めた。
   「小さい頃に仲良かった人が久しぶりに会っても、また仲良くできると思う?」
   「そりゃそうでしょ?ってこのかもしかして・・・」
   「うん・・・ウチ何か仲良くなれんのよ・・・仲良うしたいのにうまくいかんて・・・」
   「このか・・・」
   「なんか、避けられてるように思うし・・・やっぱ嫌われてるんやろか?」
   このちゃんの目に涙が見えた気がする
   「でも!嫌いになる理由がないでしょ!?思い過ごしだって!」
   「でもな、昔ウチのせいで酷い目にあわせてしもうたし・・・」
   酷い目?何かされただろうか?私の記憶には楽しい日々の記憶しかなかった。     
   「ウチのせいで川に溺れさせてしまったんよ、あれからすぐにいなくなってしもうたから・・・多分そのせいで嫌われたんよ・・・」
   あれは私のせいなのに・・・
   「このか・・・本当に嫌われてるの?私が聞いてこようか?」
   私はドキッとした。
   「ええよ、そんなことしたら余計嫌われてしまうし・・・けど、できたら前みたいに仲良うなりたいな・・・」
   そのとき、このちゃんの目から涙がこぼれていた。私の目からも。
   「お前は近くにいると傷つけるとい言ってるが、離れているほうがもっと傷つけているんじゃないか?」
   龍宮が真剣な顔で問いかけてきた。
   「・・・・・」
   私は何も答えなかった。いや、何も言えなかった・・・

   その日の放課後に龍宮が私に、
   「いい加減に素直になったらどうだ?仲良くなりたいいんだろう?」
   「・・・またその話か、ほといてくれ」
   「いや、今日こそははっきりさせてもらうぞ?」
   今日はやけに絡んでくる、そう思った。
   「お前には迷惑かけてないだろう!?これは私の問題だからほっといてくれ!」
   「お前が悩んでいて最近の仕事がおろそかになっていて迷惑だ。それにお前の問題じゃなくてお前たちの問題だろ?」
   そのとうりだった、いつもどんな時もこのちゃんの事を考えていた・・・
   「いい加減に下らない事で悩むのは止めにしないか?それに・・・」
   「下らないことだと!?お嬢様の事は真剣な事だ!!!」
   「いいや、下らないね!お前の馬鹿げた考えのおかげで二人して傷つけあってるからな!」
   反論ができなかった、本当のことだったからだ。
   「二人して仲良くなりたいのならお前が近衛さんにそう言えばすむ話だろう?」
   「そんな簡単な話じゃない!ただ仲良くなるだけじゃ意味がないんだ!それだと前と同じになるだけだ!」
   そう、前みたいにいざとなったら何もできない自分と同じだ・・・
   「仲良くなって傷つけるなら・・・このままでいい!」
   「なんで傷つけるって決まってるんだ?守ってやればいいだろ!」
   「無理だ!どんなに頑張ってもきっと傷つけてしまう!どんなに頑張っても仲良くできるはずがない!私は─」
   人ではない、その言葉が言えなかった。言ったら本当に終わると思ったからだ。
   ドンッ!
   私は壁を叩いた。
   「私には・・・無理なんだ・・・」
   やりきれない思いだった。
   そして、頬は涙で濡れていた。

   あの日の会話の時から私はただ見守るだけと心の底から誓った。
   少しでも力をつけるために、来る日も来る日も剣の修行に明け暮れた。
   前みたいに無力な自分に後悔したくないからだ・・・
   そして、私の人生と命をかけてもこのちゃんには幸せになって欲しいからそのためにできることをしようと決めたからだ。
   ただ・・・もし、本当の私を知っても嫌いになることがなかったら・・・その時は・・・
   そんな叶う事のない願いを密かに思いながら私は日々を過ごしている。

   ─この願いが叶う事はもう少し先の話になるとはこの時の私にはわからなかった。


                     
〜完〜





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